black snow [ 中2 ] ――気がつくと、銀色の男が見えて、肩を掴まれて、殴られていたのでした。 男はしりもちをついて、訳がわからないとでも言うように目を見開きました。 「な・・なんだ? お前は。誰だ・・?」 ふと見ると、小悪魔のリーダーの姿はそこにはありませんでした。 (さてはあの野郎・・逃げたな? それにしてもいつ助けを呼んだんだ?) 銀色の長い髪を持つ背の高い男は、鋭い目で男を見下します。 「お前に名乗る名はない。城に帰れ。」 銀色の男は、手をかざしてきました。 ふっ、と気がつき、男はぎりぎりの所を避けます。銀色の男が手から発した白い光を。 「あ・・っぶねぇじゃねぇか・・!!」 男の額から冷や汗が滲んでいます。 男が銀色の男に警戒していると、背中に白銀の翼があるのに気がつきました。 その瞬間、男ははっとして、(その細い目で言うと)さらに大きく目を見開きました。 (こいつまさか・・) 「お前・・天使か・・?」 男の質問に、銀色の男は、銀色の目をくりっとさせました。 「は・・はぁ? 俺はさっきからいるじゃねぇか。」 (えっ!!? 気づかなかった。気配を消すとは、なかなか身分が高いのか・・?) 瞬間、男の態度が変わったのです。 「・・・お・・王子様・・とかでいらっしゃいますか?」 瞬間、銀色の男の顔が変わりました。 ばれた、とでも言うように、眉をひそめています。 「な・・なんでわかったんだ?? 鋭いな・・。」 そして、目線を斜め下に、そらしました。 2人はお互いに勘違いをしているようです。 男は小悪魔のリーダーと銀色の男が同一人物だと思っていますが、 実は、リーダーの変身した姿が銀色の男のようです。 そして一方、銀色の男――小悪魔のリーダーは、 男がもう自分が小悪魔のリーダーだとわかっていると思っているようです。 つまり、・・ということは?実は・・・・・。 「ややっ! それでは私めは帰るとしますっ!!」 男はそそくさと言い、刹那、姿を消しました。 (・・それにしても、あのチビはどこに行ったんだ??) 空の、目の痛くなる色の渦は消え、いつも通りの薄暗い空になりました。 ガラッ そのとき、白雪姫は、木の窓を勢いよく、開けました。 そして、空をしばらく見つめると、視線を下に落とします。 銀色の髪の男が倒れているのが目に入ってきました。 男は、この森の湿った霧の露のせいで、少し、濡れているようです。 「ん・・・?」 ♪ ――透き通った、儚い夢のように綺麗な歌声。 「ん・・・?」 (・・今の・・声は・・・・。) 「あ、目が覚めたのね。」 目を開けると、白雪の、自分を覗き込んでいる顔と、 いつもの木造の天井が、男の目に入ってきました。 体を起こすと、自分の体にかかっていた薄い毛布が、おなかのところで折れました。 「・・・俺・・、倒れてたのか?」 「そうよ。・・そういえば、上の服だけ替えといたわよ。」 白雪の言葉を聞き、男はあせって自分の体を見、 “上の服だけ”と聞いて、ほっとしました。 しかし、次に白雪が発した言葉に、はっとしました。 「・・・見ちゃったんだけど、胸の・・刻印。 あれって・・王家のかなにかみたいね・・。」 少し、男は迷って。 「・・なに? あんたにもあんの? もしかして・・。」 もちろん男は白雪が王家の者と知っていました。 「・・そうよ。もう、王家じゃないのに。 私の左胸にも、濃く、刻まれてるわ。」 (・・その刻印が消えるときが、私の死ぬとき。) 「へぇ。」 男は、深刻な白雪の表情に対して、淡々といいました。 それからしばらくたって、白雪は言葉を発しました。 「それより。・・何か、あったの?それともこの小屋に何か用でも?」 白雪は、興味有り気に微笑むと、ミルクティーをそっと、くれました。 (・・おもしろいからこのまま正体を言わないでおこう・・。) つられて男も、別の意味でですが、微笑みました。 「どうも。」 少し冷ましてから一口飲むと、男は息を吐きました。 ちらりと白雪の方と見ると、さっきの話の真相を聞きたそうに、 じっと男の方を見ています。 すると男は、少し咳をして、 「俺は、どっかの国の王子で、逃げてきたんだ。」 どこの・・とは聞かず、白雪は言います。 「・・ふうん。そうなんだ。」 そして目を伏せ、 「私、追放されたの。」 悲しげに斜めを見、儚げに笑いました。 「情けないでしょ。」 男の方を見ているか見ていないかのところに向かって、肩をすくめました。 「…………。」 男は聞いてないかのように、ミルクティーを飲み干すと、何気なく言います。 「別に。そうでもない。追放された後のあんた方が、楽しそうだけど?」 しかし、余計なことまで言ってしまったのです。 「え? 私のこと、知ってたの? しかも追放される前から?」 言われることで、しまった、と男は気づきます。 「あ・・いや・・・ま・・まぁな。」 男は、あせりました。そして立ち上がり、すぐさま逃げるようにドアを出て行こうとします。 「あ、ミルクティー美味かった。あと・・歌も上手かった。じゃ、もう行くから。」 「待って!」 白雪は呼び止めます。 「あなた、もしかして・・・天使?」 「さあ。どうだろう。だとしたらお前は俺を殺さないといけないな。」 男はそんな言葉と、後姿と、銀色の髪と、翼を、 白雪の心に焼き付けて、消えた。 そして、もうひとつ 白雪の心に、赤く、熱く、深く、刻んでいった。