BLUE MAP [3rd story] 瞳に入ってくるものは、ヒカリばかりだった。 (・・しんじられない。) 今までずっと暗い中にいたので、 失明しそうなくらい、レナには眩しく映った。 動物が2匹――その正体は、1人の男と、黄色い鳥1匹、だった。 そしてその“1人”――男がレナのほうに歩み寄ってくる。 煙で見えなかった姿が、はっきりと見えてきた。 「初めまして。お嬢さん。」 男は、片膝をついておじぎをした。 男は腰ぐらいまでの長い金髪を後ろで結んでいる、といった髪型で、 姿は仮面にタキシードにマント。全て白いものだった。 レナはそのことを知らないが、おそらくマスカレードカンパニーだろう。 その仮面の形は、顔面を全て隠すタイプで、片目だけ穴が開いている。 その穴からは、蒼い、今はにっこりと細められている瞳が、のぞいた。 男は立ち上がると、部屋を見回した。 男の背は、レナから見ると、頭ひとつ分くらい高く、 目の前に男の胸元があるくらいだった。 「しっかし・・・本当に酷い事するよなぁ・・。 こんな所に閉じ込めとくなんて。」 火薬のにおいがする。 ダイナマイトでも使ったのだろう。 真四角で立方体のようだった部屋は、 見事に一角に穴が開いていて、崖がのぞいていた。 「しっかし・・・目が赤いなんて・・、 モグラみたいだな。・・ウサギだっけ?」 男は、そのきっちりとした装いとは反対に、 興味深そうにレナの周りを、ぐるぐると回っていた。 「どうしたんだい? お嬢さん。」 レナは、先程から、何の応答もせず、ボーッと外を見続けていた。 「!」 男が斜め後ろからレナの顔を覗き込むと、 レナの目から、 大粒の涙が出ていた。 男は、どうしたらいいかわからず、オロオロしている。 そしてその瞬間―― 「あ・・っはははははははははははは・・!!!」 レナは、狂ったかのように大声で笑い出した。 な・・んだ・・?? 「これが・・これが・・空!!? キレイ・・! すごい・・!!」 ・・お嬢さん。 ・・つい手が出てしまった。 「!!?」 無意識のうちに、男は自分の胸にレナの頭を押し付けるようにだが、 そっと、レナを抱きしめていた。 レナは苦しそうな悲鳴をかすかに上げたが、 男が離そうとしなかったので、抵抗しなかった。 男は、子供をなだめるかのように、レナの髪を撫でた。 どれくらいの間、そうしていたことだろう。 レナは抱きしめられてから、ずっと泣き止まなかった。 レナにとって はじめての うれしかったことで、 レナにとって はじめての あたたかいものだった。 ★ レナと男は、隣り合わせになって座っていた。 「・・ごめんなさい。こんなに・・泣いて。」 レナは、男に向かって頭を深く下げながら、途切れ途切れに言った。 「いいって。」 仮面にタキシードにマントという硬そうな印象を受ける姿をしているのに対して、 男の口調は気軽な印象を受けた。 「ねぇ。」 レナはふと思いついていった。 「あなた・・お面くらいとったらどう?」 その言葉に対して、仮面の男は、 右目だけ開いた仮面からにっこりと目をだけを細め、愉快そうに笑った。 「どうしたの? 何かおかしい?」 男に対してレナは、全てにおいて無表情に言った。 「いやぁ・・。はは、お面か。お嬢さんにとっては。」 男はぷっと笑った。 「だって・・どんな顔をしてるのかわからないもの。」 レナは不思議そうに言った。 どんな顔かわからないために、仮面をしているというのに。 「みたいのかい?」 男は斜めに顔を傾け、レナの顔を覗き込むようにして、言った。 「だって。普通何かの祭りでもない限り、お面なんてしないはずでしょ?」 そしてレナは、ぽんと思いついた。 「あ、もしかして、今日の祭りのためにきたのかしら? あ、でもだったら何でここに・・?」 レナが一人であれこれ言っていると、男はそれに参ったように、仮面をはずした。 「・・・・・。」 レナはそれを見て、すぐに黙ってしまった。 しかし男はすぐに、また仮面を顔にはめなおしてしまった。 一瞬のことに、レナは唖然としていた。 「はは・・。」 男は仮面の下で、照れながら苦笑いをした。 「面白い反応をするなぁ。」 「そう?」 (ずっと閉じ込められてたからもっと無口なのかと思ったら、全然喋れるじゃん?!) 男はそう思った。 「そんな綺麗な顔してるんだったら、仮面なんか必要ないじゃない。」 驚いている様子の男を見て、レナは、はっ、と口をつぐんだ。 そして少し赤い顔の――それは隠さずに、口をふさいだ。 「・・どうも。」 これから入るであろう沈黙を避けようと男は言うが、それに意味はなかった。 男もレナも、赤い顔を互いに背けてしまった。 「ゲコッ!」 「!!?」 刹那、カエルのような声が響いた。 「・・可愛い。」 レナは、何のためらいもなしに、その声の正体――動物2匹のもう1匹の黄色い鳥の頭を、撫でた。 すると鳥は、目を三日月形に細めた。 鳥はこの場所が初めてだからか、今まで大人しくしていたようだ。 黄色くてやや大きめのくちばし、エメラルドのつぶらな瞳、 まんまるほっぺ、すべすべでこげ茶色のタテガミ。 ふさふさでふわふわそうな胸元。 にわとりのような大きさの鳥だった。 しかしその鳥は、とても変わった鳥だった。 どこが変わっているのかというと、 背中に広がる硬そうな薄黄緑色の鱗や、尻尾の先に付いた4つの槍。 カエルの足のような、先の丸い吸盤のようなものが付いた水掻きのような足。 背中に生えた、こうもりの羽。 その鳥はそれらを揃えていた。 「そいつ。ユッケって言うんだ。」 鳥に気を取られていて、レナははっとした。 「へえ・・。龍みたいな翼を持ってるわね。」 「ああ。こいつはドラゴンとトカゲとコウモリとカエルとニワトリと・・あとなんだったかな。」 男は立ち上がって、頭の後ろをさすった。 「まぁ、そんなものの合成かなんかだったと思う。」 レナは男を見上げる。 「え?! なんか、下手物・・・。」 レナは合成と聞いて、そのドラゴンとかトカゲとかコウモリとかカエルとかニワトリとかを一緒に煮込んだりすると、 黒い液体とかになって、ユッケができたのかとか思ったらしい。 「でも不思議・・。」 レナはユッケをしゃがみ込んでまじまじと見つめる。 「こんなのはじめて見るわ。こんなものの存在をはじめて知ったわ。」 ユッケは首を傾げている。 「・・そっか。」 男はレナを上から見つめた。 刹那――ヘリのプロペラの轟音がした。 男はその音のするほうを見、レナは男の顔を見上げた。 そして男はレナのほうを見ずに、レナに言った。