[上] ――もう。 なんで私はこの血を生まれ持っているんだろう。 なんで。なんで私は。 こんな血が体中を巡るのを許したんだろう。 よくも。まぁ。 こんな血を引き継いでしまった。 なんで。なんでだろう。 なんで。なんでこんな血のせいで私は。 こんなにも――・・・。 流れるのは。 「おはよう!」 見慣れた教室の中。 私は、クラスメイトの女の子に、爽やかな挨拶をした。 「あぁ・・お・・はよ・・・。」 その子は、あからさまに無理げな愛想笑でぎこちなく笑うと、 すぐ私から離れていった。 (この血の・・・ この血のせいだ・・・。) そう思うのは、いつものくせだろう。 皆が私にぎこちなく接してくるのを、この血のせいだと思ってしまう、くせ。 そのあとも、何人かと目が合うたび、同じような挨拶を交わしただけだった。 ――休憩時間。 私はこれが一番嫌い。 独りの私には、あまりにも過酷で、とてもさみしい時間。 (こんな血だから。 こんな血だから・・いけないのよ・・・。) ほら、また。 いつものくせ。 そう思うことで、そう言うことで、逃げているのかもしれない。 それも悪いくせだと思うけど。 とりあえず、この時間はねる。 ただ 伏せて、この現実から目を離しているだけなのだけれど。 ――授業開始のチャイム。 これを聞くと、滅茶苦茶ホッとする。 大体この時間はみんな1人だから、安心する。 付き合いで笑ってくれる人とも、 話さなくても、済むから。 でも、班対抗や、自由にペアを組ませる授業を催す先生の授業は、 別 なんだけど。 そんなこんなでしていくと、 孤独の終止符の、HR(ホームルーム)も、終わった。 帰るときは、別に1人でもさみしくはないのでどうでもよくって、 帰ったら、大勢の中の孤独が、ひとりの中での孤独になるから、まだマシ。 ゲームでも、すればいいから。 1人で出来ることを、すればいいだけから。 でも、今日の帰り、私は 独りなんかじゃなかった。 それは、 「何でひとりなの?」 と、1人の少年が、迷惑にも言い寄ってきたから。 (・・失礼にも程がある・・・・・・?) そんな少年なんか、見たこともなかったけど、 私がどんな血なのか知らない少年だから、 そんな人と話したかったから、別に、嫌じゃなかった。 少年の身長は、私と同じくらいで、たぶん155pくらい。 歳もやはり私と同じくらいのようで、たぶん中3くらいだろう。 (そうだったらあの背、男子にしては結構低いよなあ・・。) 坊主頭なので、野球部かもと思う。 なんかちょっとかわいい。 「1人で悪い? どうせ彼氏なんかいらないし。」 私は、平然と答えてみせた。 「そうじゃなくて。君はいつもひとりだなって・・・・。」 少年はいつも私を見てたのだろうか・・。 「なによ。ストーカー? いつも見てたの? 私の事知ってるの? 私はあんたなんか見たことも聞いたこともなかったわよ。」 また、がんばって 話しを受け流す、私。 「ちげーよ! ストーカーなんかじゃねえ。 ・・でもいつも見えるんだ・・気になってたんだ。 君はいつも1人でいるから。」 (・・この血のせいにしてよ・・・そんなの。) このままこの血を知らさずにいて、急に知らせたら、 この少年の態度はかわってしまうのだろうか。 (・・今までそうだった。きっとこれからも・・。) そう疑ってしまい、怯えてしまう、私。 「なによ! さっきから!!」 少しいらだつけど、初対面の人に向かってだから、 ちょっと冗談ぽく、怒った風に言ってみた。 「言わせておけば、ひとりひとりひとりって!! もう!」 とりあえず歩調を速めた。が、少年もそれに合わせてくる。 「どうかした?」 少年は謝るどころか、何食わぬ顔で能天気なことを言ってくる。 (能天気というか・・天然というか・・頭おかしいというか・・?) 「別に? てかついてこないでよっ。」 拗ねたように言う。 少年は失礼というものを知らないのだろうか。 「ごめんごめん。悪かったって。なぁ。」 少し必死を装って謝ってくる姿は、なんだかかわいかった。 (こんなこと言ったら怒るだろうなぁ。) 「・・・・・・・。」 歩くスピードを下げ、ゆっくり止まった。 「いいけど。悪気ないっぽいもんね。あんた。」 少年のほうを向いた。 「うん。しかもおれ悪い事した覚えないし。 そんなことより、何でひとりなの?」 私は頭に血が昇っていくのを感じた。 「ちょっと?! 悪気が無ければ言ったっていいワケ??!!」 怒鳴ってみたが少年は相変わらず、能天気にこっちを見てくる。 「どうしても教えてくれないんだ?」 少年は悪戯(いたずら)っぽくいってくる。 「そうよ。」 私は、もう何を言ってもしつこく聞いてきそうだから、 軽く受け流すことにした。が・・――。 「ちょっと!! 家(うち)までくる気??!!」 少年は、家が見える位置まで来てしまった。 「うん。言うまでいけないしね。」 (“いけない”ってどういうことよ・・・。) 「ちょっとー。初対面の異性によくそこまで言い寄れるわね!」 すこし皮肉ぽく言う。 かれこれ近くの公園の周りを何周か回っている。 それなのに少年はいっこうに折れてはくれない。 と、困っていたとき、1人の女の子が私のほうに向かってきた。 「姉ちゃん! どうしたの? そんな所で。」 女の子とは、私の妹だ。 「あっ! 良い所にー!!」 私はすぐさまこれ幸い、と妹のところに駆け寄った。 「今ね。変な男子につきまとわれて困ってたの。」 妹は、私の来た道を見て、あれっ、という風に言う。 「だれも・・いないよ??」 私もそこを見る・・。 「あれ?? ホントだ・・・おかしいなぁ。」 さっきまであんなに付きまとって来た、少年の姿は、もうなかった。 (可愛い妹を前に照れたのかな・・・?) 顔は私と似てはいるけど、妹のほうが美人で、可愛かった。 (どこの姉妹も大体そうよねー。) 妹と並ぶのが昔から好きじゃなかったけど、 こういうときだし、家が近いから、一緒に帰る。 『妹はかわいいのにおねえちゃんは普通だね。』 見たいに言われて悔しかったのをハッキリと覚えている。 とにかく、あの少年は何処へ隠れたんだろう。 この道は真っ直ぐだし、隠れるところといえば電柱くらいしかない。 (電柱より細くは無いはずだけど・・・。) ――色んなコトを思いながら、家に辿り着いた。 ♪ 「うわー。妹だったのか。そういや似てたなぁ。 でもおれは独りでいる人にしか見えないからなぁ。 まぁまた聞きにいけばいっか。」 坊主頭は、呟いた。