[中] ――なんで君は独りなの? 暗闇の中で、声がした気がする。 『独りのほうが楽だから。  誰かの相手をするのは面倒だし、人に合わせるのも、面倒だから。』 ――ホント? それ。   ホントはたまらなくさみしいんだろ?   ホントは誰かにすがりたくて、   ホントは誰かに頼ってほしいんだろ?   1人でいるのが嫌なら、2人になろうとしろよ。   誰かと仲良くなろうと思えよ。   お前結構かわ・・・・―― 声は、消えてしまった。 (川?) ――いつもの朝がはじまった。 ◆◇◆◇◆ そして今は学校の帰り道。 (――あの夢の声は・・・?) 「また出たわね!!!」 ・・・あの少年だ。 「何で私に付きまとうの? 私を苛めてるの?」 少年は昨日と同じ顔をしている。 「なんで苛めないといけないんだよ。  ただ 気になるだけだよ。いつも君から伝わって来るんだ。」 (な・・にが・・・・。) 「さみしさが。」 「え?」 (この人なんなの・・? 昨日から・・。エスパー??) 私はもうあきれ果てた。 「さみしいって。伝わって来るんだ。なのに・・なんで君は独りなの?」 前にも聞いたような言葉に、私はハッとして、歩くのを辞めた。 (・・夢の・・とおり・・・?) 「独りのほうが楽だから。」 夢の通り、私もいってみた。 「誰かの相手をするのは面倒だし、人に合わせるのも、面倒だから。」 (ほら・・。きっとこっからまた・・。) 「ホント? それ。」 (やっぱり・・。) 私の頭の中は、今朝の夢のことでいっぱいだった。 「ホントはたまらなくさみしいんだろ?  ホントは誰かに・・」 「もういい。もうその話しはいいから。2度も言われなくてもわかるから。」 少年のわかりきった言葉を、断ち切った。 (どれだけ私を苦しめる気なのかしら・・・。) 「でもホラ、あなたといるから、私は1人じゃないわ。2人よ?」 適用な笑顔を作って話しを紛らわそうとした。 「夢の話、覚えてるのかよ・・・。」 少年はうつむき、口元を片手で隠して、赤面している。 「え?」 聞こえなかった、フリをした。何かの間違いだと思いたかったから。 「あっち行こう。」 人のあまり通らなさそうな道を指差した。 (もう少し行けば、ベンチがあったはず・・。) ――そこに、腰掛けた。 ♪ 「あなたは何で私のことが気になったの?」 今度はこっちから質問し返してやる。 「・・・・君は・・・違う・・。間違ってる。だから・・・。」 少年の言いたいことは、私にはよくわからなかった。 「君には・・。間違えて欲しくない。」 でも、ただわかるのは、切なげにゆがむ少年の顔と、 私の、動揺だった。 「君には“生きてる”っていう証がある。  生きることが辛いって事と、その、  それでも、流れる。」 (――な・・・に・・そ・・・れ・・・・。) 血のことは・・知らないはずだった。 私は崩れそうだった。 「――僕には。それがない。  誰にも。触れてもらえない。  誰も。触れられない。  血なんてものは、ない。」 (よく・・わからな・・・) 少年は真っ直ぐ私を見て―― 「僕は、生きてない。」 その言葉を。 私は、何かの冗談だと思った。 「・・な・・わ・・け・・」 少年は、私の言葉を遮るかの様に言った。 「死んでるんだ。」 心臓が、鳴った。 強く。 「俺は・・死んだんだ。車にひかれて・・・。  ・・血が、足りなかった。俺は・・・、B型・・だったから。  輸血が・・足りなかったみたいだ・・。」 ・・・意味がわからない。作り話だ。 これは作り話だ。 「そんなの・・信じられるわけないじゃない。」 私の眉間に、深く、刻み込まれた。 涙がこぼれそうだ。なぜだろう。 「俺は、野球・・甲子園に出場できたのに・・。  ずっと補欠だったのが悔しくて・・がんばって・・。」 少年の目に、涙がたまっていくのがわかった。 「ようやく3年の夏、出場が決まったんだ。  しかも俺はキャプテンになれたんだ。  それなのに・・、球場へ向かう途中に俺は・・・。」 どこかで聞いたことのあるような話だ・・。 「死んでから色々みたけど、血に困らないのは、  お前のあれほど毛嫌っている、お前と同じ、“A型の血”だ。」 (そういう・・考え・・・。) 「だから何?A型は血に困らないからこの血を好きになれって言うわけ??!無理。」 (とうとう言ってしまった・・。) 私は、走った――。 「お前がどれほど恵まれた血液を持っているのか証明してみせるよ・・・。」 少年はその場から姿を消した。 ♪ ぱしっ、と手を掴まれたような音がした。気がした。 びくっ、と私は振り返った。 私の目に映るものは、私を引きつらせた。 「・・っ!・・手が!!」 (す・・すけ・・てる・・・・。) 「ご・・ごめん。そうだよな。掴めなかったんだよな。」 少年は、ひどく、悲しそうな顔をした。 「で・・でもっ!わ・・私は・・私の・・血が。嫌なの・・。」 「あなたは・・」 (少年の名前・・・) 私ははっとした。少年に2度目の質問をする・・。 「ねぇ。あなたの名前は?」 いつの間にか2人は横断歩道を渡っていた。 「え?・・勝・・男。」 少年はどこか、照れていた。 私は話に夢中になっていた。 そこに車がいたのに、気づかなかっただけ――。 「かつお・・?・・あははっ。かわいいなま・・」 ――・・・・え? キキ―ッ 車のブレーキの音が、轟く。 ♪ 私は・・私も、車にひかれてしまった。 もう意識なんてないけど。 救急車の音と、少年の・・勝男の声が、聞こえた、気がした。 だから――。 ♪ 俺は・・また事故に面してしまった。 なのに。 危ない・・ということも、 その体を庇うことも、 その手を掴むことも、 できなかった。 たぶん、これは、呪いなのだろう。 自分自身からの、呪い。 また、1人の人が車にひかれてしまった。 また、人を助けられなかった――。
2005.11.8. nagatuci
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