[下] ――なんで君はA型だってことが、嫌なの? 消えゆく意識の中で、声がした気がする。 「A型は・・几帳面で・・それははっきり言って細かいって意味で・・。  神経質で・・しつこくて・・ねちねちしてて・・うざく・・て・・・。  く・・暗くて。だから・・・だから嫌なのよ!!!」 とうとう言ってしまった。 (もう・・やめて。) ・・誰にもいえなかった。 こんな目で見られてるって事。 「A型なだけで・・細かいと・・暗いと・・・。勝手に決め付けられて・・・。  そんな中、O型とかは皆が集まるし・・好感をもたれてる。」 息を吸って、 「血液型だけで好感を持たれる。  血液型だけでこんなに忌み嫌われる。  A型は皆に避けられる。A型の人だって・・A型の人を避けてる。  そんなの・・そんなのっておかしいじゃん!!」 一気に吐いた。 私の感情は、泣きすぎて疲れたときのようにボロボロになっていた。 真っ暗な世界に、涙が頬をつたう感覚はなかったが、 精神世界のようなこの場所ではなく、現実の世界だったら、 それはあっただろう。 「・・そうだな。そうだよな。  でも。O型はそうやって妬まれてるんだよな・・。  今の世界は人のそんなところばっかり気にしすぎなヤツばっかりなんだよな。」 (・・・何が言いたいのよ・・。) 「私もO型だったら・・好かれてるのかなぁ?」 「俺はそんなことないと思う。  俺は、B型である前に、俺なんだから。  そして、キミはA型である前に、キミだ。」 なんでだろう。 (なんでこうも、私の言って欲しかった事を・・) 彼はすべて言ってくれた。 見透かしてくれた。 「俺はキミになれないし、キミも俺にはなれない。当たり前だろ?  キミはA型だけど、そうじゃないだろ。キミは、“A型のキミ”なのかい?  キミは、“ただのキミ”だろ。どこからどう見ても“キミ”なんだよ。  A型でも良いじゃないか。  俺も、B型って名前じゃない。俺は勝男だ。それ以外、ありえない。」 勝男が、微笑んだ気がした。 「キミは・・キミでいてもいいんだよ・・――」 そうして声は少しずつ、薄れていった。 何もない、闇の中で、涙が零れた気がする。 ♪ 「――あぁ・・。」 私は目覚めていた。 私を覗き込んでいる母は私の目を見て、そっと、手を握ってくれた。 「お・・母・・さん・・・。」 私は、生きている。 血が、巡っている。 輸血が間に合ったのだろう。 「よかった・・。心配・・したのよ。」 母は、泣いていた。 私の頬にも、涙がつたったような感覚があった。 私は目だけで、周りを見回した。 (か・・つ・・お・・・・・?) もう、ここにはいない気がした。 (成仏・・できたのかな・・?) 少年がいて欲しいと、願った。 ♪ 1ヶ月間、私は、入院・リハビリをしていた。 もうそろそろ、退院する予定。 そして、私は勝男のことばかり考えていた。 勝男はあの後どうなったのか、どこへ行ったのか。 勝男にまた会えるのか。会って、お礼がしたい。 私は、屋上まで歩いた。 ここなら、勝男という少年に会えるかも知れない、と思ったから・・。 ♪ ――・・少年は、突然現れた。 誰もいなくなった刹那に。 「・・やぁ。」 「!!!!!」 とても、驚いた。 後ろから聞こえた声は、勝男の声だ。 「か・・かつお!? ・・会いたかった。」 私は、振り返ってすぐさま、彼に飛びついてしまった。 すかりもしなかった。 幻のように、そこに勝男の姿はなくなっていた。 「え・・・?」 私は、わけがわからなかった。 「・・重なってるんだよ。」 私はそれに気づき、すごく反省した顔で、 すぐに一歩引いた。 そして少年は、優しい顔で、切なそうな声で、言った。 「・・・生きてるんだね。」 ・・・涙。 「か・・・・つ・・お・・・。」 私も、泣く。 勝男がそうしたように。 私は、こぶしをぎゅっと握り締めた。 歯を食いしばった。 泣き叫びそうになった。 泣いて、“勝男”という男の子に触れて、 抱きついて、泣きたかった。 私はベンチに座ってて、その隣には勝男がいた。 「ありがとう・・勝男・・・。」 涙はおさまってた。 だけど、まだ声は重い。 「こちらこそ、ありがとう・・。  そうだ。さいごに・・いや。記念に名前、教えてよ。」 (・・さいご・・・。) 「記念って・・なによ・・。」 少しつぶやいて、 落ち着いた声で、私は言った。 「・・わか・・め・・。」 「うっそォ!!?」 勝男は、思い切り驚いた。 私は思わず噴出してしまった。 (か・・かわいい・・・・・っ。) そして、しばらく爆笑した後、訂正した。 「嘘だって。でも、もしそうだったら、運命みたいじゃん?  ホントはね、若葉(わかな)っていうの。」 「へぇ・・。」 『かわいいなまえ』と、私が最後までいえなかった言葉を言って、 勝男は無邪気に微笑んだ。 それだけで、今までのこと全てよかったんだ、と思えた気がした。 「ありがとう、若葉・・。」 その一言で、私は、勝男が消えかかっていることに気がついた。 いかないで、とは言わないで、私はひとしずく、涙を流した。 「ありがとう、勝・・男。」 ――もう・・逃げないから。 二人とも、安らかな笑顔をした。 勝男は、生まれ変わるであろう自分を、 若葉は、これからの、自分と、未来を、 楽しみにしているかのような、不安をふりはらっているような。 [完]
2005.11.8. nagatuci
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