| 聖者ナイトメア |
彼は生涯一人だけ、人を愛したのだという。
そしてその人にだけ、自分の存在を伝えた。
自分の記憶を残した。
その人はひたすら、彼の存在を誰かに信じてもらおうと、叫んだ。
世界に呼びかけた。
・・しかしそれを信じる人はいなかった。
一人として、彼女の味方をする人はいなかった。
皆に罵られ、世界から“嘘吐き”と呼ばれるようになった。
傷ついて、ボロボロになって。
それでも“彼女”は彼を信じ続け、
本当の、”真実である嘘”を世界に伝え続けた。
そして、孤独になってしまったその人の目の前に、彼は再び現れた。
そこで二人は涙を流しながら抱擁し合った。
彼は初めて誰かのために涙を流せた。
初めて誰かを本当に愛しいと思えた。
でもそれは、彼にとって最後だったという。
そして彼は、彼女が伝えた“嘘”や、彼女の記憶、全ての自分への記憶を消したという。
彼女がどれだけそれを望んでいないか知っていたのに。
彼女がどれだけ自分のことを愛し、信じてくれていたか、わかっていたのに。
・・彼女が、自分の存在を生み出していたというのに。
それから2人は、それぞれの道を、自分の道を、別々に歩んでいったのだという。